なぜα7 VやS1IIがZ6IIIより階調が優れるのか 解明されてきた部分積層型の性能

当ページには広告が含まれています。
α7 V
  • URLをコピーしました!

解析されつつあるα7 VのRAWデータ

Photons to Photosが公開したα7 Vのダイナミックレンジ測定結果に衝撃を受けた人は多かったようです。Photons to Photosが公開した測定結果によれば、α7 VのRAWデータは、すべてのISOでノイズリダクションが適用されており、これはRAWデータとは言えないのではないかとの声も聞かれました。

以下がPhotons to Photosが公開した、初期のα7 Vのダイナミックレンジ測定結果です。すべてのISOでの測定結果が、▼で表現されていることがわかります。これは、ノイズリダクションが適用されていることを示しています。

Photons to Photosが公開した初期のα7 V測定結果
画像タップで拡大します

しかし、その後、Photons to Photosはα7 Vのメカシャッター撮影時と電子シャッター撮影時のRAWデータに違いがあることを発見しました。メカシャッターで撮影した場合のダイナミックレンジ測定結果はグラフが滑らかだったものの、電子シャッターで撮影した測定結果は従来の測定結果によくあるように、ISO800あたりで突然、ダイナミックレンジの測定結果が良くなる山が出現していたためです。

画像タップで拡大します

下記が、α7 Vの電子シャッター撮影時のダイナミックレンジ測定結果です(黒色のグラフ)。

画像タップで拡大します

なぜ電子シャッターとメカシャッターで、ダイナミックレンジ測定結果にこのような違いがあるのでしょうか?それは、これらが部分積層型センサーであることと無関係ではなさそうなことがわかってきました。

ダイナミックレンジ向上の新技術

この部分積層型センサーでは、デュアルゲイン出力とデュアルコンバージョンゲイン(ハイパーコンバージョンゲイン)という2つの異なる画素からの出力モードがあることが判明したようです。デュアルゲイン出力は今回判明した新しい機能で、デュアルコンバージョンゲインは、これまでのセンサーにも搭載されている機能です。

それぞれどのような機能なのでしょうか?

デュアルコンバージョンゲイン

イメージセンサーは、光を電気信号に変換することで画像を生成します。この変換の際に使われるのが「コンバージョンゲイン(変換利得)」です。コンバージョンゲインとは、画素が受け取った光(フォトン)を電荷に変換し、それを電圧に変換する際の増幅率を指します。

デュアルコンバージョンゲインでは、この変換利得を2段階で切り替えることができます。通常、低ISO感度では「低ゲイン」が使われ、広いダイナミックレンジを確保しつつ、明るい部分の白飛びを防ぎます。一方、暗いシーンや高ISO感度が必要な状況では「高ゲイン」に切り替わり、ノイズを抑えながら暗部のディテールを引き出すことができます。

画像タップで拡大します

このゲインの切り替えは、撮影時のISO感度に応じて自動的に行われます。たとえば、あるカメラではISO 800を境に低ゲインから高ゲインへと切り替わる設計になっていることがあります。これは、ISO 800以下ではダイナミックレンジを優先し、ISO 800以上ではノイズ低減を重視するという考え方に基づいています。

新機能 デュアルゲイン出力

最近、注目されているのが「デュアルゲイン出力」という技術です。これは、1回の露光で異なるゲイン(増幅率)を持つ2つの信号を同時に出力する仕組みで、ダイナミックレンジの拡張とノイズ低減を両立するために用いられています。

デュアルゲイン出力では、1つのピクセルから「低ゲイン」と「高ゲイン」の2種類の信号を同時に読み出します。低ゲインは明るい部分の階調を豊かに保ち、白飛びを防ぐのに適しています。一方、高ゲインは暗部の微細な光も捉えることができ、ノイズの少ないクリアな描写が可能です。

この2つの信号を後段の画像処理で合成することで、明るい部分から暗い部分まで、より広いダイナミックレンジを持つ画像を生成することができます。つまり、明るい空と暗い影が同居するようなシーンでも、どちらかが犠牲になることなく、バランスの取れた描写が可能になります。

一見似ている「デュアルコンバージョンゲイン」と混同されがちですが、両者は異なる技術です。デュアルコンバージョンゲインは撮影時に低ゲインと高ゲインのどちらか一方を選んで使用するのに対し、デュアルゲイン出力は同時に両方のゲインで読み出す点が大きな違いです。

このため、デュアルゲイン出力は特に動画撮影やハイダイナミックレンジ用途において強力な武器となります。1フレーム内で明暗の情報を同時に取得できるため、動きのある被写体でも自然なハイダイナミックレンジ表現が可能になります。

画像タップで拡大します

α7 Vの初期の測定データで、RAWにノイズリダクションが適用されていると表記されていたのは、この合成技術がノイズリダクションを適用していると判断されてしまったからだということがわかりました。

部分積層型の新たな使用方法

今回、新たに判明したデュアルゲイン出力ですが、このような機能を可能としたのは部分積層型センサーであると言われています。部分積層型は、完全積層型ではなく部分的に積層型にすることで、積層型センサーにより近い読み出し速度を実現した機能です。

この読み出し速度の高速化は、動画撮影時のローリングシャッター歪の低下を実現しました。しかし、この読み出し速度の高速化を活かして、ダイナミックレンジを向上させたのが、デュアルゲイン出力ということになるようです。

というのも、同じ画素から低ゲインと高ゲインの2種類を読み出さなければならないので、単純計算で2倍の読み出し速度が必要になります。これだと時間がかかってしまい連写が不可能になるほか、ローリングシャッター歪が増えてしまいます。しかし読み出し速度の早い部分積層型センサーであれば、速度が早くなったため高速連写も可能で、ローリングシャッター歪を少なくすることも可能となります。

ここで話はもとに戻るわけですが、以下のα7 Vのメカシャッターと電子シャッターでダイナミックレンジの測定結果が異なる理由は、部分積層型センサーの特徴にあるようです。つまり、電子シャッターでは読み出し速度に時間がかかるため、ローリングシャッター歪が表れてしまう可能性があるためデュアルゲイン出力は行わず、従来のデュアルコンバージョンゲイン機能のみの利用になってしまう可能性があるということになります。

メカシャッターではローリングシャッター歪は問題とならないため、デュアルゲイン出力が可能となります。

画像タップで拡大します

しかし、上記のようにデュアルゲイン出力でダイナミックレンジを向上できるのは、特定のISOまでで、それ以上の高ISOとなるとデュアルコンバージョンゲインでの撮影とほぼ同等ということになるようです。

この理由についてはいくつか指摘されています。デュアルゲイン出力では1回の読み出しで低ゲインと高ゲインの信号を両方取得し合成するわけですが、ISOがある程度以上になると、そのメリットが少なくなりデュアルコンバージョンゲインとほぼ同等になると考えられています。

ISOを上げるというのはセンサーのゲインを向上させることと同じ意味で、高いISO値では高ゲインの信号が強くなり、低ゲイン側の出力との差が低くなり合成するメリットが少なくなること、今度は低ゲイン側の信号のノイズが増えるため、やはり合成するメリットが少なくなると考えられています。

そのため特定のISO以上の高ISOになるとデュアルゲイン出力は行われず、デュアルコンバージョンゲインのみの対応となると考えられます。

不思議だったNikon Z6IIIとLUMIX S1IIの違い

LUMIX S1IIが発売されたときNikon Z6IIIと同じ部分積層型センサーを搭載したと考えられていました。しかし、ダイナミックレンジ測定結果をみるとLUMIX S1IIとNikon Z6IIIの結果はかなり違うものでした。今回のα7 Vのダイナミックレンジ測定結果で、なぜそのような結果になっているのかが解析されつつあるようです。

まず確実だと思われるのは、LUMIX S1IIもα7 Vと同様にデュアルゲイン出力を採用している可能性が高いということです。それにより”山”のないフラットなグラフとなっています。一方で、Nikon Z6IIIにはISO800あたりで山が出現しています。

画像タップで拡大します
Nikon Z6IIIとLUMIX S1IIのダイナミックレンジ測定結果
画像タップで拡大します

このことは、Nikon Z6IIIがデュアルゲイン出力に対応しておらず、そのためダイナミックレンジ測定結果が低ISOでLUMIX S1IIよりも劣っているらしいということを意味しています。

なぜこのような結果になるのか、なぜニコンがデュアルゲイン出力に対応していないのかは不明ですが、EXPEED 7プロセッサがデュアルゲイン出力に対応できていないか、もしくは特許で守られている可能性があるかもしれません。

また、このグラフはおそらくメカシャッターによる測定のもので、電子シャッターでの撮影となるとLUMIX S1IIもNikon Z6IIIと同等のダイナミックレンジ測定結果になるのではないかと予想されます。

このように、部分積層型という読み出し速度が速いセンサーが登場したことで、連写速度だけではなく、画質の向上にも役立つという新たな視点があるというのは目からウロコのように思いますね。各メーカーがいろいろな工夫をしていることがよくわかります。

α7 V 関連情報アーカイブ !

α7 V 最新情報

ソニー 最新情報

α7 V主な仕様

α7 V 主な仕様
スクロールできます
センサーサイズ35mmフルサイズ、部分積層型Exmor RS CMOSセンサー
画素数約3300万画素
センサークリーニングアンチダスト機能
イメージプロセッサBIONZ XR2
手ぶれ補正イメージセンサーシフト方式5軸補正
手ぶれ補正効果中央最大7.5段、周辺最大6.5段
高速連続撮影電子:最大約30コマ/秒
メカ:最大約10コマ/秒
動画撮影7Kオーバーサンプリング 4K 60p
4K 120p(APS-Cクロップ)
シャッター速度静止画撮影時 (メカシャッター): 1/8000-30 秒、バルブ
ISO静止画撮影時: ISO 100 – 51200 (拡張: 下限ISO 50、上限ISO 204800)
フォーカスポイント静止画時:最大759点 (位相差検出方式)
動画時:最大759点 (位相差検出方式)
EVF0.5型 約369万ドット
背面液晶3.2型4軸マルチアングル液晶モニター 約210万ドット
メモリカードスロットSLOT1: SD (UHS-I/II対応)カード、CFexpress 2 Type Aカード用マルチスロット
SLOT2: SD (UHS-I/II対応)カード用スロット
サイズ約130.3 x 96.4 x 82.4 mm、約130.3 x 96.4 x 72.3 mm
質量バッテリー、 メモリーカード含む: 約695 g
α7 V

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする