訴状によれば、キヤノンが2017年9月に発売した純正品インクカートリッジの「BCI-380」と「BCI-381」は、回収したカートリッジにインクを詰めてプリンターに入れて起動させても「インクなし」と表示される。そのまま使うとプリンターを破損する恐れもあるためエコリカはこの3年近く当該のキヤノン用再生インクを製造・販売できなかった。
実はキヤノンは密かにカートリッジのICチップを暗号化し、初期化できないように仕様を変えていたのだ。これについてエコリカは「技術上、必要な変更ではなく、再生インクカートリッジを製造・販売させない目的でしかない」と主張し、独占禁止法が禁じる「競争者に対する取引妨害」に該当すると訴えている
(記事を一部引用しています)
(記事元)https://biz-journal.jp/2020/11/post_190445.html
インクカートリッジの仕様変更でキヤノンを提訴
Business Journalがキヤノンのインクカートリッジについて報道しています。詳細な解説がありますので、全文は記事元リンクからご覧ください。
記事によれば、キヤノンが発売している純正のインクカートリッジの仕様が変更され、互換製品や詰め替え用のインクを利用することができなくなったのだそうです。そして、これは技術上必要な変更ではなく、再生カートリッジを製造、販売させない目的で行われたものだとして、独占禁止法に抵触しているのではないか?として提訴したそうです。
ネットでは、キヤノンのプリンタありきで商売をしているのに、仕様変更があったからといって、それを問題視するのは盗人猛々しいのではないか?という意見もあるようです。ですが、記事では2004年に公正取引委員会が、キヤノンがカートリッジの仕様を変更したことを問題視して調査したことがあり、今回の論理もこの公正取引委員会の論理とほぼ同じで決して筋違いではないという意見が紹介されています。
詰め替え用のインクや再生カートリッジは、かつて品質が悪くて、よくインク詰まりになってしまったり、印刷すると滲むですとか、かすれるといったこともありました。ですが、最近の互換インクはかなり品質が高くなり、純正品より安いということもあって、利用している個人や企業が増えている印象ですよね。
崩れるジレット商法
いい商品を製造しても、購入してもらわなければ意味がないし、購入したあともできるだけ利益をたくさん得たいということで考え出されたのが、最初に購入するハードを低価格にして、そのハードに必要な消耗品を高値で販売するという商法です。
このような商法をひげ剃りを販売するジレット社が行ったことから、ジレット商法と呼ばれています。つまり、ひげ剃りの本体を低価格で販売し、本体を購入させた後に必要になる替え刃のカートリッジを高値にすることで利益を得られるようにするというものです。
プリンタも同じで、プリンタ本体を安い価格で販売しておいて、消耗品であるインクカートリッジで利益をだすというビジネスモデルを採用している機種があります。もしこれが不可能になると、プリンタ本体を低価格で提供することができなくなり、高価格に設定する必要があるため、プリンタ全体の売上げが落ち込み、プリンタメーカにとっては都合が悪くなるということですね。最近はコンビニのマルチコピー機が便利になっていますので、月に何回かしか印刷しないというライトユーザは、自宅で印刷できるという利便性を犠牲にして、コンビニなどを利用するという選択をする人もでてくるだろうと思います。
どのようにインクの詰め替えをさせないようにしているのかというと、インクカートリッジにはICチップが搭載されていて、そこに利用したインクの量を記録していくのだそうです。メーカ側からすると、それぞれのインクの量を把握しないと交換を推奨するメッセージなどを出せないので、そのようにしているのだと思います。
ところが当初はそれで互換カートリッジの製造ができなかったのですが、その後にそのチップに記録されているインクの残量をリセットする方法が編み出されて、これを回避することができていました。そしてキヤノンはBCI-380、BCI-381というインクカートリッジで、恐らくプリンタとのデータのやりとりを暗号化することにより、実際にどのような通信をしているのか解析することを不可能にし、ICチップに記録されている残量をリセットすることを不可能にしたのだと思われます。
共通鍵暗号を利用していれば、解析すればある程度簡単に暗号は解析できると思いますが、プリンタとカートリッジ側のチップに、それぞれユニークな公開鍵暗号が設定されているとすると、内容を解読するのは難しいと思いますので、事実上、互換インクの製造は不可能になるのだと思いますね。
ですが、今回のインクカートリッジに関しても、実は互換カートリッジが発売されています。どうしてかな?と調べてみると、インクカートリッジの残量を把握することはできないけれども、ある操作をすると残量がゼロでも続けて印刷できることができるのだそうです。その機能を利用すれば、印刷をすることはできるということで、実際に完全に互換インクを利用できなくなったわけではありません。なので、実際には利用できているわけで、これをもって独占禁止法に抵触するというのは言えない可能性もあるのかな?と素人的には考えてしまいます。
それでは、今回、キヤノンを提訴した互換カートリッジメーカも、そのようにして販売すればいいのではないか?と思うのですが、メーカ的な言い分としては、記事をみるとどうやらインクの残量が表示されないため、インクがない状態で利用し続けるとプリンタが壊れる可能性があるので、互換カートリッジを発売することができなかったとしているようです。
そうなると発売しなかったのは善意とはいえそのメーカの都合で、発売できるのにしなかったと言われる可能性もあるわけで、なかなか厳しい立場でもあるのかな?という感じがします。
カメラ市場の縮小で、事業の一つの柱が厳しくなっているキヤノンですが、新型コロナでテレワーク化が進みOA複合機などの需要も低迷しているなか、自宅で印刷する人が増えているので一部では家庭用のプリンタの需要は増えているのでは?という報道もあるようですが、この提訴によって今後のプリンタの戦略にも問題がでてきそうで、いろいろ悩みが尽きないという状況が続きそうですね。
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コメント
コメント一覧 (4件)
互換レンズメーカーがカメラメーカーを提訴しないと同様
互換インクメーカーがプリンターメーカーを提訴するのは
お門違いのような気がします。
今、互換インクが安く多くのメーカーから販売されています。
もしも粗悪なインク使用で消費者が被害を被った場合を
考えればプリンターメーカーとしては商売上の理由と共に
互換インクは使って欲しくないでしょうね。
また最近はインクカートリッジ式ではなく大容量インクボトル式が
増えてきました。
モノクロで7000枚程度は印刷できるようなので互換インクメーカーは
淘汰されてしまうかも知れません。
またプリンタ価格を比較すると同等な仕様でインクカートリッジ式の
3倍くらいの価格ですね。
カートリッジで儲けが出せない以上仕方がありません。
年賀状ぐらいしか印刷しない消費者にとっては打撃ですね。
プリンターをジレット商法で儲けを出そうというのが間違ってるのでは?
ただでさえ紙に印刷するというのは今後ますます減ってくだろうし、儲けを出す商法の見直しをする機会に来てるのでは。
素直に本体を利益の出る価格にしてインクをまともな価格にするほうがいいのでは。1セット6000円するインクが一度の年賀状で消えるってのはなかなかにきついです。
最近ではメーカーも本体価格を上げて、インクは比較的安価に供給する大容量インクモデルを充実させつつあります。ただ、高度な写真画質に耐えられるモデルはまだ無いようです。
いずれにせよ、紙に印刷して写真を鑑賞するという文化が急速に廃れていくようで不安です。
やはり、気に入った作品を印刷して細部にわたってチェックするのが写真上達の近道だと思いますね。