実現したグローバルシャッター搭載のカメラ
先日、グローバルシャッターセンサーを搭載したソニーのα9 IIIが発表され、大きな話題となりました。これまでグローバルシャッターを搭載したデジカメが発売されると何度も噂になっていました。技術的にはすでに存在しているのですが、価格が非常に高いこと、画質が通常のイメージセンサー(ローリングシャッターセンサー)よりも悪く高感度耐性が悪いなどいくつかの欠点があったため、いまのデジカメに搭載してもメリットが低いということで、主に産業用として使われていました。
そのためローリングシャッター搭載の民生用カメラは、なかば都市伝説のように扱われており、発売されるまでにはかなり時間がかかるだろうと思われていました。そんなときに発表されたものですから、α9 IIIは非常に驚きをもって迎えられたわけですね。
しかし、このグローバルシャッターセンサーは通常のセンサーとはどのような違いがあり、どのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか?それぞれみてみましょう。
ローリングシャッター歪みの開放
これまでのイメージセンサーは1行単位で画素の露光と電子の読み出しを行っていました。下の図がイメージセンサーのイメージ画像で、一つの四角が1画素に該当します。
イメージセンサーの概念図
これだけみてもたくさん画素があるわけですが、実際には数千万画素という画素数になりますので、縦に数千行並んでいることになります。この行を1行ずつ読み込んでいると、一番上の行から読み出していって、最後の一番の下の行を読みこむまでに時間差が生じてしまいます。このとき、被写体が動いたり、カメラを動かしたりすると、ゆがんだ被写体が撮影されてしまいます。この歪みをローリングシャッター歪みといいます。
一方でグローバルシャッターのイメージセンサーは、1行ごとに読み出すのではなくすべての行をいっぺんに読み出すことが可能です。
このようにすべての行を同時に読み出すことで、被写体が歪んでしまうローリングシャッター歪みをなくすことが可能になります。
バンディングからの開放
また、このローリングシャッターのイメージセンサーは、特に最近のLED照明でバンディングと呼ばれる現象を発生させることがあります。LED照明は明るさを調整するために高速で点灯/消灯を繰り返していることがあります。ローリングシャッターのセンサーは1行ずつ読み込むため、読み込んでいる途中でLED照明の消灯/点灯があると、一部分だけ明るくなったり、一部分だけ暗くなるような写真が撮影されてしまうことがあります。
上記のローリングシャッターを説明した画像に「フラッシュバンド現象が発生」という記述がありますが、まさにこれがバンディングです。グローバルシャッターでは1行ずつ読み込むことなく同時に読み込むため、バンディングは発生しません。ただ、撮影したタイミングによっては、たまたま全てのLEDが消灯したときに撮影されると真っ黒になったりすることはありますが、これは仕方がないのかもしれません。
フラッシュ同調速度の制限からの開放
グローバルシャッターが実現することで制限がなくなるのが、フラッシュの同調速度です。このフラッシュの同調速度について理解するためには、まずメカシャッターの仕組みを理解する必要があります。
まず最初にイメージセンサーは先幕シャッター(濃い灰色の部分)で覆われています。イメージセンサーはシャッターで覆われているので露光されていません。レリーズボタンを押すと先幕が下がりイメージセンサー(青色の部分)が露出することで、その部分が受光することになります。
設定したシャッター速度に応じて、先幕の後に後幕が下りてきます。そして最終的に後幕がセンサー全体を覆うことになり、これ以上、センサーが光に当たることはありません。
上記の図の上側のようにイメージセンサー全体が露出していない状態でフラッシュを発光させると問題が発生してしまいます。イメージセンサー全体が露出していないのにフラッシュを発光させると、その露出した部分だけ光が当たってしまい、そのほかの部分は暗くなってしまうのです。
そのため、上記の画像の下の図のように、イメージセンサー全体が露出している状態になったときにフラッシュを発光しなければなりません(下段の中央の青色の部分が全て露出した状態)。このためシャッター速度の速さには限界があり、その速度はカメラによって異なりますが1/200秒から1/250秒ぐらいがフラッシュを利用できる限界となります。
それ以上の速いシャッター速度でフラッシュを使う場合には、フラッシュを何度も発光させてイメージセンサー全体で光を受けるようにする必要があります。例えば上記の画像の上段で考えると、左から2番目の時に1回目、左から3番目の時に2回目、左から3番目の時に3回と、3回フラッシュを発光させると全体的に露光することになります。かなり特殊な方法を利用するわけですね。
しかし、これはローリングシャッター歪みのように1行ずつ読み出すようなことをしているから発生している問題です。グルーバルシャッターでは、一度に同時にすべての画素を読み出すことができるので、このフラッシュの同調速度を無視することが可能です。フラッシュに関する制限がなくなることで、これまでは撮影できなかったような写真を見ることが出来るようになるかもしれません。
グローバルシャッターセンサーのデメリット
一方でグローバルシャッターになることでデメリットがでてきてしまうと言われています。それが対ノイズ、高感度耐性です。なぜセンサーにグローバルシャッター技術を搭載するとノイズが増えたり、高感度耐性が悪くなったりするのでしょうか?
ノイズが増える可能性
その理由は二つあると言われています。その一つがグローバルシャッターを実現するためにセンサーの受光面積が少なくなるからではと考えられています。そこでセンサーの画素の概念図をみてみましょう(画像タップで拡大します)。
左側が通常のセンサーの概念図、右側がグローバルシャッターセンサーの概念図です。RST、SG、TG、RSはそれぞれスイッチで、PDとSDがフォトダイオードです。FDがコンデンサでSFが増幅器です。
まずは通常のセンサーからみてみましょう。スイッチRSTをオンにするとフォトダイオードに保存されている電荷が開放されリセットされます。そしてスイッチTGをオンにすると光の強さに応じて電荷が貯まっていきます。そして最後にスイッチRSをオンにすると貯まった電荷がSFが増幅され、信号処理部へと流れていきます。
グローバルシャッターセンサーでは同時に読み出すことを実現するために二つ目のフォトダイオードSDと二つ目のスイッチSGが新たに追加されているそうです(あくまで予想です)。同様の流れでPDに貯まった電荷は、いったんフォトダイオードSDに貯まり、そこから信号処理部に流れるという2段階の流れとなっています。
このキモはフォトダイオードSDは受光しない仕組みになっていることです。電荷を1行ずつ読んでいくと最後の行のフォトダイオードが後から受光して電荷を貯めてしまうことでローリングシャッター歪みが発生していました。そこでいったん光を受光しないフォトダイオードに電荷を貯めておき、あとから1行ずつ電荷を読み出しても変化がないことでグローバルシャッターを実現していると言われています。
しかし、新たにフォトダイオードとスイッチが回路上に必要になったことから、フォトダイオードPDの面積が少なくなり、そのぶん受光能力が落ちたと言われています。そのため、既存のセンサーよりもノイズが多くなっているのではないかと想像されています。
ベースISOが高い
前述のように新たなフォトダイオードとスイッチが必要になった結果、デュアルゲイン回路も搭載することができなくなったと想像されており、これまでベースISOが100だったものがα9 IIIではベースISO300になってしまった理由の一つと言われています。
パナソニック製シネマカメラ VARICAMにも搭載されているパナソニック独⾃の先進技術「デュアルネイティブISOテクノロジー」を搭載。⼀般的なイメージセンサーは、単⼀の感度・ゲイン回路構成を有していることから、⾼感度になるほどノイズも同時に増幅されてしまうという課題がありました。BS1Hで搭載しているデュアルネイティブISOテクノロジーは、1画素ごとに「低ISO感度回路※1」と「低ノイズ・高ISO感度回路※2」の2系統の専用回路を搭載し、撮影環境に合わせて使用する回路を切り換えることで、高感度時もノイズを抑えた、より⾃然で美しい絵作りを可能にします。
この⾰新的な技術により、低照度環境下においても美しい描写を⽣み出すことができ、PC編集によるノイズリダクションなど撮影後のワークフロー時間を短縮するなど、映像制作のクオリティをさらにステップアップさせることができます。
というわけで、グローバルシャッターセンサーにはメリットがある反面、デメリットがあることもわかります。特にノイズを嫌うような撮影をする場合にはグローバルシャッターセンサーを選択しないという判断をする人がいるかもしれません。
一方でローリングシャッター歪みなどがないことから、特に高速で動く被写体を撮影する報道向けの写真やWebメディアなどでは、多少のノイズは許容できるでしょうからグローバルシャッターセンサーを利用するという選択をする人もいると思いますね。
結局は使い分けということになると思いますが、間違いなく一般の静止画撮影者には既存のメカシャッターでもほとんど問題ないのかなと思いますね。
というわけで、しったかぶりをしてみましたがおかしな点があったら訂正していただけるとありがたいです。
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